金氏高麗人参(株)研究開発室トップ>文献コーナー>放射線防護効
- 薬用人参'89 207-218
田中 敬正
関西医大放射線科 -
- (背景)
放射線障害は照射後数週間以内に発現する急性障害と数年から数十年後に発症する晩発障害がある。急性の身体障害として扱う場合、全身照射ではその照射効果として生死の判定が用いられることが多い。ヒトの全身照射では50%致死線量は、約4Gy(400rad)、100%致死線量は7Gyと言われている。4~7Gyで死亡する場合、10~20日後に造血機能の障害による骨髄死であり、10Gy以上では消化器粘膜の障害による腸管死が照射後3~5日前後に起こる。また100Gy以上では数時間後ぐらいで中枢神経死がおこる。ガンの放射線治療は、主として局所照射であるが、この時にも、照射部位のいろいろの障害(皮膚炎や粘膜炎、肺線維症等)のみならず、骨髄障害による白血球減少、血小板減少ひいては貧血を生じ、また免疫能の低下等を起こすが、これが放射線治療上での大きな問題点となっている。薬剤について照射前に投与されなければ有効でない場合を狭い意味の防護、照射後に投与しても有効であるときに回復と呼んでいる。今まで開発された中で放射線防護剤として有名なものはSH基を持つ化合物とSS結合をした化合物であるが、防護効果は強くても副作用も強く、臨床面の応用は行われなかった。 副作用が少なくて効果の大きい薬剤の開発が待たれる。
- (放射線障害に対する人参の役割)
-
- 照射による骨髄死を防護するがこれは骨髄中の造血幹細胞(CFUs)の回復を促進する。特に骨髄中に含まれる血小板の前駆細胞の巨核球数の回復が促進されることが報告されている。
- 放射線骨髄死に対する防護効果は、非サポニン分画にあることがわかった。このことは大阪府立放射線中央研究所武田氏らにより、白人参の非サポニン分画において放射線照射後の血小板の回復促進に効果があることが報告されている。
- 人の放射線治療の応用により、免疫系特にTh/Tsの増加が実証された。(Th:ヘルパーT細胞。免疫活性を誘導強化 Ts:サプレッサTー細胞。免疫応答を抑制)
- 人参の投与時期は照射の一定期間以前より長期にわたり投与する方が良いのではないか。放射線治療に人参を主体とした漢方薬を用いることは大変有意義なことと考えられ、さらに基礎面、臨床面での研究が必要である。
- The ginseng Review No.12(1991)54-57
田中敬正 鹿浦砂智子 赤木清
関西医科大学放射線科 -
- (結論)
-
- 放射線照射による下痢症状は紅参末投与群、柴苓湯投与群により防止された。腹部骨盤領域の照射中、20Gy前後で下痢の発生が見られるが、これは急性の小腸粘膜障害による吸収障害で小腸が広範に照射されるほど、発生頻度は強く高くなる。今回、我々の経験でも対象はすべて子宮頸ガンで照射野はほぼ一定であったにもかかわらず、紅参投与群で下痢の発生頻度が低く、このことは紅参末をはじめとするある種の漢方製剤には、放射線照射による骨髄障害のみならず、放射線による腸管障害に対しても何らかの防護効果の存在することを示すものであり、今後、基礎面での検討が必要である。
- 放射線宿酔症状(悪心、嘔吐)に対しては、紅参、その他の漢方製剤により無効であるのみならず、時に憎悪させた。
- 末梢血液像では白血球数、リンパ球数の減少が見られるが、我々の使用した漢方製剤では数値の上では防護効果は見られなかった。
- Th/Tsは一般に免疫系の活動状態の一つの指標にされている。今回の結果では対照群では照射期間中Th/Tsはほぼ一定であり、紅参末、十全大補湯+紅参末投与群で上昇傾向を認め、これらの漢方製剤が免疫系に何らかの影響を与えている可能性が示唆された。
- The Ginseng Review No.14 (1992) 21-24
田中敬正 赤木清
関西医科大学放射線科 -
- (結論)
6~7Gy全身照射により10~14日後に死亡の一つのピークが見られ、これを骨髄死と呼んでいるが、これの原因として脳内出血、腸管出血による死亡が一つの原因である。紅参末が造血幹細胞の回復を促し、これが出血傾向を阻止する結果となっている。これが放射線照射による骨髄死を防護しているものと思われる。
- J Vet Sci. 2007 Mar;8(1):39-44
Kim HJ, Kim MH, Byon YY, Park JW, Jee Y, Joo HG.
Department of Veterinary Medicine, College of Applied Life Sciences, Cheju National University, Jeju 690-756, Korea 高麗人参の酸性多糖類(APG)--ジンサンと呼ばれている--は重要な免疫活性を持っていることが知られている。最近、APGは詳細なメカニズムは完全に解明されていないがマウスにおいて放射線防護効果を持つことが報告されている。この研究は骨髄細胞(BMs)に関するAPGの効果を調べた。 ガンマ線照射後のAPG処理BMsにおける表現型と機能の変化が研究された。ガンマ線でダメージを受けたBMsに関するAPGの特長は細胞の生存率を測定することにより決められた。二つの異なった分析法を使用して、APGの前処理はガンマ線に対してBMsの生存率を非常に増加させた。培地処理のBMsと比較してAPG処理のBMsは免疫反応の主要なサイトカインであるIL-12の量が非常に高くなった。APGで処理したBMsのMHCクラスⅡ分子の発現もまた増加した。そしてAPG処理BMsは同種のCD4(+)のリンパ球増殖の非常に高いレベルを示した。さらにAPG処理マウスはコントロールマウスよりもガンマ線照射後BMsの数がより大きかった。そしてAPG処理マウスのBMsは抗原提示細胞の代表である樹状細胞にうまく培養された。結局この研究はAPGはBMsを表現型に変え、試験管そして生体内の両方でガンマ線照射後のBMsの生存率と同種反応性を増加することを示す。そのためにAPGはBMsに対する放射線防護薬の良い候補となるだろう。
- Food Chem Toxicol. 2006 Apr;44(4):517-21
Ivanova T, Han Y, Son HJ, Yun YS, Song JY.
Medical Radiological Research Center, Russian Academy of Medical Sciences, Obninsk 249036, Russia 小核多染性赤血球の発生率がC57BL/6雄性マウスで評価された。このマウスはガンマ線照射30分前と照射15分後にジンサン(100,200,300mg/Kg体重)と放射線防護剤アミフォスチン(200mg/Kg)処理した。照射30分前または15分後にジンサンを与えたマウスは用量依存的に小核多染性赤血球が減少した。アミフォスチンは照射により誘導される小核多染性赤血球を減じなかったが、照射前に投与した場合は赤血球を刺激し増やした。これらの結果よりジンサンの放射線防護効果は照射により誘導される遺伝毒性の減少に部分的に貢献できる。
- Mutagenesis. 2005 Jul;20(4):237-43.
Lee TK, Johnke RM, Allison RR, O'Brien KF, Dobbs LJ Jr.
Department of Radiation Oncology, Leo W.Jenkins Cancer Center, Brody School of Medicine at East Carolina University, Greenville, NC 27858, USA 全人参の水可溶性抽出物が、単離したジンセノサイドフラクションよりも照射により誘導されるDNAのダメージに対してより防護することが明らかとなった。ダメージに重要な役割を果たすのはフリーラジカルと考えられるが、人参はフリーラジカルを清掃する抗酸化能力に関係するし、また免疫賦活能力にもよる。
- Radiat Res. 2003 Jun;159(6):768-74
Song JY, Han SK, Bae KG, Lim DS, Son SJ, Jung IS, Yi SY, Yun YS.
Laboratory of Immunology, Korea Institute of Radiological and Medical Sciences, KAERI, 215-4,Gongneung dong, Nowon-ku, Seoul, 139-706, Korea 我々は以前に高麗人参から純粋に単離された多糖類のジンサンがLAK細胞から誘導された分裂促進活性を持ち、ある種のサイトカインのレベルを増加させると報告した。今回の研究でジンサンは照射後の造血細胞の再構築に必要な時間を減ずる有効な試薬であることを示唆した。